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問い合わせに対する 東京都水道歴史館の金子様からの回答

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◎東京都水道歴史館への問い合わせ事項について
・東京都千代田区外神田3-5-18(現在の芳林公園)
・1818年(文政元年)当時の滝沢馬琴の旧宅跡の井戸の位置、道路からの配管経路
・同下水配管の位置
・水道の水の供給量(池に水を入れられるほどの供給量?)
・当時の水道料金
 
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問い合わせに対する 東京都水道歴史館の金子様からの回答。
 
(一社)日本エステリア学会 中澤昭也様
 
FAXでのお問い合わせ拝受いたしました。
東京都水道歴史館の金子と申します。
 
お問い合わせありがとうございます。
通常ですとご来館いただき
当館のライブラリー等で資料をご紹介いたしたいところですが、
ご指摘のとおり状況が許しませんので、
雑駁ながら取り急ぎメールにてお返事させていただきます。
 
さて、馬琴が明神下に住んでいた際の屋敷の井戸についてのご質問とのことですが、
実は、この地域には、
馬琴の頃には上水が通っておりません(記録上)。
 
神田地域の外堀より外の地域(いわゆる外神田)には、「神田上水」が一時期ひかれており、
貞享年間(1680年代)とされる上水樋線図(配管図)には
昌平橋の所からお堀を越えて上水が供給される経路が描かれています。
しかし、寛政年間(1890年頃)に書かれた『上水記』という本にはこのルートは描かれておらず、
馬琴が暮らした19世紀には廃止されているようです。
 
もうひとつ、この地域には本郷湯島経由で配水された「千川上水」がありました。
こちらは元禄9年(1696)に作られますが、享保7年(1722)に廃止、
その後天明元~6(1781~86)に一時的に復興しますが、またすぐ廃止になりました。
 
ということで、馬琴の生きた19世紀頭頃にはこの地域には公式の上水がなく、
井戸があるとすれば基本掘り井戸ということになります。
(実際には廃止された上水が利用され続けていたり、
湧水を利用した簡易水道的なものがあったりした可能性は否定できませんが、
公式にはこういう状況です。)
 
馬琴の記録に上水を使っていたという記録があるのでしょうか?
あるとすればまずその上水の正体を探る必要がでてきます。
 
さて、したがいましてご質問の
1.屋敷内の上水井戸はどこか
2.道路からの配管経路はどのような経路か?
3.水道の水の供給量
につきましては、お答えいたしかねるということになります。
 
もっとも、実際に上水が通っていたとしても、
以上のご質問に関してお答えすることはおそらく難しいです。
江戸上水の記録は、基本的に道路上に敷設した公用部分に関するものがほとんどで、
個人の敷地内の配管については記載されていません。
ごくまれに(町家の敷地割り等を記録した)「沽券図」に上水の引込線が描かれていることがありますが、
おおむね模式図的なもので、屋敷内のどの位置に井戸があるかまで記録したものはほぼありません。
大名屋敷などでは屋敷図に描かれていることがありますが、
町家だと居住者個人で記録した史料が見つからない限りむずかしいでしょう。
また、当時は従量制ではないので、個別の屋敷地の給水量についても記録がありません。
 
では馬琴邸の池の水はどこから?ということになりますが、可能性としては
・神田明神の高台(本郷台)からの湧水(谷水)を引いていた
・雨水や低地なので地下からの湧水を利用した
といったところが考えられます。
本郷台の周りは比較的湧水が豊富なところなので、
水路あるいは木樋等で引いてきていた可能性はあるかと思います。
 
3.下水道の経路はどのような経路か
につきましても、個別の町家の記録がない限り、わかりません。
立地的には敷地内の下水木樋から道路沿いの下水(側溝)に出て、
神田川に排水していたのだと思われますが、
当時の下水は現在のように体系化されておらず、
側溝の水を集めて流すというような感じですので、
細かい記録は残っていません。
お送りいただいた図-2のようなものがたまたま残っていて
そこに下水が記載されていればわかる・・・という感じでしょうか。
 
4.当時の水道料金システムについて
こちらは町家では小間割、武家地では石高に応じて徴収されていました。
馬琴宅だと町家になりますので、宅地の間口の幅から設定された水道料金
(18世紀末だと1間(1.8m)あたり11文(1年あたり))
が定例的に徴収(水銀)されたほか、
沿線で工事があった際には別途普請金というのが割り振られました。
これらは地主が払うため、住人としては「家賃に込み」となります。
 
以上、あまりお役に立てませんがお返事させていただきます。
当館休館も3/7まで延長となりご不便をおかけいたしますが、
再開いたしましたら、ぜひ一度ご来館くださいませ。
 
以上、取り急ぎお返事まで。
東京都水道歴史館
企画調査責任者 金子 智